スペシャル・トレンドレポート

ボリス・ジョンソン首相の進退(松崎 美子氏)

2022年2月9日

日本でも報道されているはずであるが、英国の政局が非常に騒がしい。COVIDがパンデミックからエンデミックとなり、一安心というタイミングで発覚した首相官邸を取り巻く一連のパーティー疑惑。

今回のコラムでは、その概要を説明するとともに、先週のマーケットの動きについて考えてみたいと思う。

PMQでの暴露

昨年からずっとパーティー疑惑の話しは出ていたが、今年に入り決定的となったのが1月12日のPMQであった。PMQとは英国議会独特の伝統的なもので、毎週水曜日に与野党の党首がやりあい、それ以外の議員も首相に質問をして良い時間帯を指す。PMQとは、「Prime Minister’s Questions」の略であり、毎週水曜日ロンドン時間昼12時から約30~45分くらいにかけて行なわれる。
https://www.parliament.uk/visiting/visiting-and-tours/watch-committees-and-debates/prime-ministers-questions/

私が銀行で働いていた当時から、PMQの時間になるとディーリング・ルーム内のTVをつけて見ていたのを覚えている。

1月12日のPMQでボリス・ジョンソン首相(以下、ボリス)は開口一番、「2020年5月20日 、ロックダウン中にも関わらず、首相官邸でのガーデン・パーティーに出席した。仕事関係の集まりだと思った。全ての責任を取るつもりである。」 と発言。これを受け、野党:労働党スターマー党首は、「責任を取るというのは  辞任するということか? 辞任したほうが良い。」 と返した。この瞬間からボリスの進退は時間の問題という認識が高まったが、意外と粘っているのには、私自身も驚いている。往生際が悪いとも言えるが、これが政治家なのだろう。

グレイ報告書発表

PMQでのボリスの暴露を受け、翌日からグレイ内閣官房事務次官が動き出した。彼女はこの手の議員の不正行為について調査した経験が多く、今回も首相の不正行為を暴くため、調査を開始した。

通常、このような調査には2ヶ月ほど時間をかけるそうであるが、今回は1月末くらいまでに結果を発表するという超スピードで動いた。

保守党では既にボリスに対する不信任決議発動に向けた動きが出ていたが、多くの議員はグレイ報告書内容を確認してから動くとしており、報告書の発表が待たれた。

そして、1月31日(月)早朝に待望の報告書が発表された。300ページ以上に渡り、500枚以上の写真付きのレポートである。しかし、残念なことに、既にロンドン警視庁の捜査が首相官邸に入っており、警視庁からは捜査に先入観が入ってしまうので全容の公開は取りやめるよう指示が出された。結果として、私達が目にしたのはPDF12ページで、調査に関する総括が5ページ半に渡り記されているだけの簡易版となった。

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1051374/Investigation_into_alleged_gatherings_on_government_premises_during_Covid_restrictions_-_Update.pdf

発表直後、首相官邸は警視庁の捜査結果が出ても、グレイ報告書の全公開はあり得ないとしていたが、その後 国民の反発が強いことを受け、後日 全公開に踏み切ると態度を変えた。

グレイ報告書の内容

① パーティー開催時期について

・ 2020年5月から2021年4月までの間に、16回のパーティーが開催された

・ 全てのパーティーは、首相官邸 或いは 内閣府で行なわれた(1つだけ例外的に教育省で行なわれた)

・ 未だに報道されていないパーティーが2回、首相官邸で開催。それ以外は内閣府で開催

・ ロンドン警視庁は、12のイベントについて捜査中。2020年5月20日の首相官邸ガーデン・パーティーも捜査対象のひとつ

・ 2020年6月19日のボリスの誕生パーティーも捜査対象のひとつ

・ 2020年11月13日に首相官邸のアパートでの集まりも捜査対象のひとつ

② グレイ・レポート要点

グレイさんによると、いくつかのイベントは(ロックダウン中に)開催されるべきではないものであり、それ以外のイベントも開催そのものが許されるべき内容ではないと判断。

そのうち、4点が強調されていた。

A: パンデミック(ロックダウン)中であることを無視した行動

・ ロックダウン中に飲酒を伴う集まりを行なうこと自体、正当性に欠けている。国民は愛する両親やパートナーの死に目にも逢えない行動制限をさせられていたのだ。

・ いくつかのイベントは、政府のモラルが問われるものである

・ これらのイベントが開催されている間に、どれだけ国民が耐えているかについて、あまりにも配慮が足りない。そして、そのような大勢の集まりを実行に移せば、(パーティーに参加していない)一般市民へも感染者数が出るなど考えなかったのか?

B: リーダーシップの欠如

・ 首相官邸や内閣府は、国を代表する場でありリーダーシップと一般常識としての判断能力が著しく欠如している

・ いくつかのイベントは、そもそも開催されるべきではなかった。他のイベントは、開催されたとしても、パーティー内容が行き過ぎである

C: 飲酒文化

・ (ロックダウンやパンデミックに関わらず)仕事場での過度な飲酒はそもそも許されるものではない

・ 各省庁は飲酒や飲酒量について、明確はガイドラインを設定すべきである

D: グレイ・レポート調査方法

・ グレイさんのチームは、70人の個人にインタビューした。中には、1回以上のインタビューをした人もいる。全て匿名である

・ メール、WhatAppやテキスト・メッセージもチェックした

・ 写真や建物の入り口と出口もチェックされた

・ レポートには、各イベントがCOVID規則に沿っているかについては言及していない。理由は警視庁の捜査中であるため、言及は避けた

ロンドン警視庁による捜査

1月12日のPMQに続き、25日夜には、ボリスが2020年の自分の誕生日にパンデミックの行動制限があるにもかかわらず、首相官邸で誕生パーティーを開催したことを認めたことがきっかけとなり、Scotland Yard(ロンドン警視庁)が首相官邸を捜査すると発表した。やはり警視庁も動かざるを得なくなったのだろう。

現在も捜査は継続しており、捜査結果がいつ発表になるのか、全く分からない状況である。

捜査結果が発表され、グレイ報告書の全内容が公開されれば、現在ボリスに対する態度を保留している保守党議員達も、不信任決議支持に動くか決定するとされている。

ボリスの失言

ボリスの失言は数え切れないくらいある。最も目立つのは、反イスラム発言。しかし、先週驚くような失言を議会で行い、これがきっかけとなり、ボリスの取り巻き(側近)5人が一斉に辞任するという緊急事態となった。

どういうことかと言うと、議会でのボリスと労働党スターマー党首とのやりあいの時に、ボリスは「スターマー党首が検察庁長官であった時、没後に数々の幼児性犯罪が発覚したBBC人気司会者:ジミー・サヴィル氏を起訴しなかったのは、どうしてだ?」と質問した。私もちょうど車の運転をしながら、国会中継を聞いていたので、驚いたことを覚えている。

スターマー党首はすぐに、「自分が検察庁長官時代に、この案件は担当しておらず、全く関わっていない。」と反論。

議会という国の運営を司る最も高尚な場で、このような下品な推測を首相たる人物が口にすることに腹を立てた議員達。スターマー党首に対して、このような例を挙げて中傷する下品な行為に対し、野党だけでなく保守党内でもボリスに対し、即刻発言を撤回しスターマー党首に謝罪すべきという意見が多く出た。ボリスは謝らない人間として有名であり、未だに謝罪はしていない。

そして、その数日後、ボリスがロンドン市長時代からずっと側近を務めた政策主任や、首相補佐官、首相秘書官、首相官邸報道官など合計5名が辞任を発表。特にボリスと近かった人物ばかりであったため、ボリス自身も相当ショックを受けたようである。

この5人の辞任による無言の抵抗を受け、ボリスの立ち位置はぐっと弱まった気がしている。

レッド・ウォールの反逆と餌付け

保守党の党首に対する不信任案決議を発動するためには、保守党議員(360人)の15%に当たる54人かそれ以上の書簡が必要となる。現在は、34~44通の書簡が集まったと言われているが、何人かの議員は提出した書簡を引っ込めたとも言われている。

それはどうしてか?

2019年12月に実施された解散・総選挙で保守党が圧勝した背景には、レッド・ウォール(赤い壁)と呼ばれる伝統的に労働党を支持する英国北部の有権者の票が集まったことがある。当時の選挙公約では、経済的に回復が遅れている北部には、重点的に公共投資などの支援金を振り分けるという餌で釣った票である。

しかし、レッド・ウォール地域への支援金はパンデミックで大幅に削減され、これらの地域の保守党議員は、「約束が違うじゃないか?」と中央政府を攻めてきた。そしてボリスの不信任案決議の書簡を送ったのも、主にレッド・ウォールから選出された議員であると言われている。

そこでボリスが取った行動は、1月末くらいから積極的にレッド・ウォールの選挙区を回り、3月に発表される来年度予算案で、北部復興に向けた財政支援を充実させる。その代わりに、自分に対する不信任案決議の書簡を撤回して欲しいと頼んでいるようだ。

果たして、警視庁の捜査結果とグレイ報告書の全公開となった時にも、これらの議員は書簡を撤回したままとなるのか?そのあたりは、私自身も全く予想が立たない。

ここからのポンド

これだけ政治的なゴタゴタが続いているにも関わらず、ポンドは堅調に推移している。英中銀の金融政策引き締め観測が大きく出ていること、百歩譲ってボリスに対する不信任案決議が発動されたとしても、保守党議員の過半数以上の「不信任支持票」が集まるのか?という素朴な疑問も出てくる。

これらのチャートは、週末時点のユーロ/ドルとポンド/ドル、ユーロ円とポンド円を比較したものである。

ポンド/ドルとポンド円には、ピンクのハイライトを入れていたが、2月3日に追加利上げをしたにも関わらず、両通貨ペアとも前回高値を越えられずに週末を迎えた。

それに対し、ユーロ/ドル(緑のハイライト)は、前回高値まで戻った。ユーロ円は(水色のハイライト)前回高値を軽く越えた。

こういうチャートを載せた理由は、「織り込み済み」をマーケットがどう消化するかをよく表現した動きと思ったからである。つまり、英国の利上げ期待はマーケットにかなり織り込まれており、予想通りに追加利上げが実施されても、マーケットはさほど動かない。

それに対し、年初から「売りがコンセンサス」となっていたユーロについては、ラガルド総裁が記者会見で年内利上げを完全には否定しなかったことを受け、ショートカバーで吹き上げ、同時に「年内利上げ」を織り込みながら上昇していったと考えている。

このように、クロス円を取引している人にとって、同じロングにするにしても、織り込み度が極端に低いユーロ円を選択した人は、大きく利が乗ったことであろう。おめでとうございます。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話を聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2022年2月9日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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