スペシャル・トレンドレポート

「米ドル/円」、日銀の政策修正もくすぶり、頭の重い展開へ

2022年2月4日
NYのシニアディーラー :「米ドル/円」は1月に2度上値を試しにいきました。1回目は1月4日(火曜)で116.35円まで、2回目の1月28日(金)では115.68円まででした。NYから眺めていますと、上値が重いように見受けられますがいかかですか」
東京支店のチーフディーラー :「為替というのは2通貨間の売買なので、それぞれの通貨の固有の材料を分析しないといけない。ここにきて円にも買い材料が出始めている。1月中旬には、一部通信社が「日銀の利上げに言及する記事」(後述)を報じて市場の話題になっていた」
NYのシニアディーラー :「はい、こちらでも注目を集めていました。外国人投資家というのは、こうした中央銀行の政策変更前の微妙な姿勢の変化などにとても敏感ですからね。日銀のニュースで「円買い」に飛びついたのもわかります」
東京支店のチーフディーラー :「米国の金融政策の行方は?そちらの受け止め方はどうなの?」
NYのシニアディーラー :「わたしの周囲の市場参加者の意見とまとめると、3月利上げ開始で今年は年末まで5回の利上げ。FRB(注)の資産圧縮(バランスシート縮小)開始は年内半ば。ただ、こうしたことはコンセンサスですから、大半はすでに市場に織り込まれています。こうしたことが「米ドル/円」の上値を重くしている要因でしょう」
(注)米国の中央銀行

東京とNYというセンターこそ異なれ、為替市場で活躍するこの2人の会話から判断する限り、米国の金融引き締めはほぼ市場に織り込まれているという。そうした織り込みの完了が「米ドル/円」を重くしているという。本当なのだろうか。

1月14日(金)、翌週の日銀金融政策決定会合を控え、一部通信社が「日銀、2%の物価目標達成前に利上げの議論開始」と伝え、日本株売りや為替市場では円買いが強まる場面があった。「米ドル/円」はこの日、113.49円までの反落となった。

2013年に誕生した日銀の黒田総裁は2%の物価目標を掲げており、百歩譲って目標達成前の利上げなどあるわけがない。それでも、こうした報道に外国人投資家を主体とする短期投機筋が飛びつくのは、相場の材料が手詰まりという側面が大きい。ただ、こうした観測記事は1月17日(月)~18日(火)にかけて開催された日銀金融政策決定会合後の黒田総裁の会見で明確に否定された。こうした経緯もあり、「米ドル/円」は買い戻され、一旦115.05円までの上昇となった。

黒田総裁の任期が来年2023年4月に迫り、総裁の交代で政策変更が意識されてしまう側面は否めない。携帯電話料金の値下げの影響がはく落する今年春以降は、CPI(消費者物価指数)の伸びは2.0%に迫るとの見方も強く、緩和縮小観測はくすぶる。そもそも、このところ進んだ原材料価格の上昇や円安の影響で、昨年の国内企業物価指数は比較可能な昭和56年以降で最大の伸びとなった。

黒田総裁が否定する利上げはまだしも、YCC(イールドカーブ・コントロール)でのバンド拡大等の政策修正観測はくすぶり続ける。「米ドル/円」を重くする1つの要因だ。

チャート:日本銀行より筆者作成

その後「米ドル/円」はウクライナ情勢をめぐり、地政学リスクの台頭から一旦反落となった。1月25日(火)~26日(水)の日程で開催されたFOMCでは、FRBパウエル議長の会見を通じ、3月の利上げ開始、3月のテーパリング終了、国債などを買い入れた量的緩和で膨らんだ資産圧縮(バランスシート縮小)の議論開始が示唆された。

金融緩和の縮小が示されたことで、株式市場はこれを嫌気して下落に転じた。一方で、為替市場では全般ドルが買われ、「米ドル/円」も1月28日(金)には115.68円までの上昇となった。ただ、本レポート執筆時点(2月2日(水)午後)では115円を割れてきており、高値を維持出来ないでいる。

チャート:外貨ex byGMO MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

FRBパウエル議長の会見のなかの質疑応答では、3月に一度に通常の2回分の利上げ幅である50bp(0.50%)の利上げや年末まで毎会合の利上げの可能性を否定しなかった。米国ではコロナ後の経済の急回復から、需給ひっ迫や供給制約は止まず、物価の高騰から市民の不満は高まり、バイデン政権の支持率は急低下している。

米国の労働省が1月12日(水)に発表した12月のCPI(消費者物価指数)は、前年比で+7.0%となり前月の+6.8%から一段の上昇をみせた。過去をさかのぼる1982年6月以来、約40年ぶりの高水準で政権への批判が強まる。秋の中間選挙惨敗と酷評されるなか、物価対応は喫緊の課題で、12月に再選が発表されたパウエル議長はタカ派姿勢を貫かざるを得ない。

チャート:米国の労働省より筆者作成

FOMCでこうしたタカ派の見通しが示されたことで、足元で2024年末まで米国で7.8回程度の利上げを織り込む。「米ドル/円」の水準とこの利上げの織り込み回数の間には比較的強い相関があり、両者の関係にはy=1.2255x+106.2という相関式が成立する。利上げ1回分の「米ドル/円」への影響が約1円23銭ということを示す。

この先、経済が一段の拡大を示し、物価の高騰が続き、金融市場がさらに利上げを織り込み、2024年末までここから合計10回の利上げを織り込んだと仮定する。相関式がこの先も続くとして、そこから示唆される「米ドル/円」の上昇余力は2円70銭程度(注)だ。

(注)1.2255*(10.0-7.8)≒2.70(2円70銭)

図表:筆者作成

ただ、これはあくまで雇用が順調に拡大するなど順風満帆な展開を描いただけで懸念材料も多い。すでにコロナ後の経済対策や失業給付の上乗せは打ち切られ、景気浮揚効果には乏しい。コロナ感染から職場復帰をためらう人も多く、12月の小売売上高は年末商戦で活況が予想されるなか、前月比ではマイナスとなった。

2月1日(火)に発表となった米国経済の代理変数と称される1月ISM製造業景気指数は3か月連続の鈍化を示し、経済成長のピークアウトも視野に入る。以上をまとめると、日銀の政策変更もくすぶるなか、米国ではかなり過剰に利上げを織り込んでしまった。引き続き、「米ドル/円」の上昇ポテンシャルは乏しいとみておきたい。

チャート:米供給管理協会より筆者作成

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2022年2月4日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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