スペシャル・トレンドレポート

米国金融正常化はほぼ織り込み済み、「米ドル/円」上昇余地は乏しく(竹内 のりひろ氏)

2022年1月7日
NYのシニアディーラー :「年明けの為替市場では、「米ドル/円」の買いが加速していますね。昨年来の高値115.52円を更新してきたことで、損失覚悟の「米ドル」買いも相当でていたようです。当地ではやはり短期投機筋の「米ドル」買いが相当持ち込まれているようです。東京の様子はいかがでしょうか」
東京支店のチーフディーラー :「ここでも、年始の1月3日(月)に「米ドル」買いが進んでしまったことで、輸入企業などの実需筋が「米ドル」買いの手当が遅れており、ここにきて仕方なく高値で買っていると聞こえてくる。買いの主体こそ違うが、それなりに「米ドル」買いがでているということだね。この「米ドル」買いの理由は何なの?」
NYのシニアディーラー :「一言で申し上げれば、コロナ後の米国の金融緩和の正常化でしょう。12月のFOMC(注)ではテーパリング(国債などを買い入れる量的緩和の縮小)の3月の終了を決定しています。さらに今年3回と想定されている米国の利上げの前倒し観測から、金利が上昇していることも理由でしょう」
(注)米国で金融政策を話し合う会合
東京支店のチーフディーラー :「金利の上昇要因はそれだけ?他には?」
NYのシニアディーラー :「あっ、もう1つありました。米金利が上昇する前に社債を前倒しで発行しようという動きです。つまり、金利がまだ低い間に社債を発行して資金調達を終えてしまおうという動きです。投資家の投資資金は無限にありませんから、米国債を売って社債を買う動き、つまり、米国債の需給悪化懸念も金利上昇要因となります」

この2人の会話をひも解くと、米金利の上昇が「米ドル/円」上昇の理由だという。金利が上昇する通貨を買い建て、金利の低い通貨を売り建てれば、日々、スワップポイントが転がり込む。さらに金利が高い通貨が上昇してくればキャピタルゲイン(売買差益)も手に入り2度美味しい。そんな単純な構図が長続きするのだろうか。

今回は、こうした「米ドル/円」上昇の継続性に切り込む。

昨年1年間の主要通貨の対米ドルでの騰落を計測すると、上昇通貨は「カナダドル」(+0.71%)のみだった。それ以外の通貨は下落に転じており、「円」は下落では最上位(-11.42%)だった。「米ドル/円」は確かに上昇しているのだが、「円」は全ての通貨に対しパフォーマンスで劣り「クロス円」が上昇に転じている。

世界がコロナ後の金融緩和からの出口に向かう一方で、日本だけが金融緩和を続けている。低金利の「円」を売り、これから金利が上昇しそうな通貨が選択的に買われたと考えると分かり易い。

図表:筆者作成

昨年末、「米ドル/円」は115.10円付近で年越しとなった。年明け後は昨年11月24日(水)の高値115.52円を更新後に「米ドル」買いが強まり、1月4日(火)には昨年来高値116.35円まで上昇と騰勢を強める(本レポートは、1月5日(水)午後執筆)。ここまで押し目もほとんどなく、堅調さを維持する。

チャート:外貨ex byGMO MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

ただ、年初の動きは経験的に余り当てにならない。昨年は、年初から3営業日で年初来安値102.60円まで下落したが、その後は反発に転じ今に至る。当時は米国の金融緩和の長期化が見込まれ、多くの市場参加者が「米ドル」安を予想していた。昨年からの「米ドル/円」買いだが、上述のように理由は米金利の上昇や利上げの前倒しからだった。

米国ではコロナ後の経済活動の再開に伴い、供給制約から需給がひっ迫、物価上昇が加速している。こうしたインフレの高進は、通常は購買力の低下からその国通貨の売り要因だ。インフレが加速するなかで、通貨買いとなるにはインフレを上回る利上げや利上げの織り込みが必須となる。米国では、足元で2024年末までに約6回の利上げを織り込む。

昨年11月24日(水)、「米ドル/円」が当時の年初来高値115.52円まで到達した日、この利上げの織り込みは7回を超えていた。足元では6回までその織り込みを縮小させているが、「米ドル/円」はお構いなしに上昇を続ける。以下のチャートをみての通り、「米ドル/円」の水準はある程度利上げの織り込みの支配下にある。

現在の「米ドル/円」の上昇が期待先行なら、いずれ利上げの織り込みが追いつく必要がある。足元の両者のギャップだが、かい離は「米ドル/円」の下落、または利上げ織り込みの回復で埋められる必要がある。では利上げの織り込みは再加速するのだろうか。

チャート:筆者作成

1月4日(火)に発表された米国経済の代理変数と称される12月のISM製造業景気指数は、市場予想に反して58.7までの低下となった。内訳をみると、入荷遅延や仕入れ価格が1年ぶりの水準に低下、供給制約に一部解消がで始めている。需給ひっ迫がインフレの一部要因であったことを振り返ると、2022年半ばにかけてインフレがやや落ち着いてくる可能性もある。

チャート:ISMより筆者作成

同日に発表されたJOLTS(雇用動向調査)では、米国の求人件数に頭打ち感がみえ始めた。11月の求人は、1056.2万件と労働需給のひっ迫感に一巡感がある。昨年後半に加速した米国のインフレだが、供給制約の解消に伴いピークアウトしてくる可能性がある。利上げの織り込みの急加速は、もともとインフレの上振れだったことを振り返ると、利上げの織り込みが巻き戻される可能性も大きい。

チャート:米国の労働省より筆者作成

日本の財務省が12月23日(木)に公開した対外及び対内証券売買契約等の状況から、国内の機関投資家が海外の中長期債を最近売り越していることが判明している。クロス円や「米ドル/円」の水準自体が高いことが背景だか、この売り越し分、全て「円」買いを伴うわけではないが、相応の円転(注)がでていることは確かだ。

(注)為替市場で外貨を売って円を買うオペレーション

「米ドル/円」が115円台を回復していた昨年11月3-4週では、海外の中長期債を合計約2.5兆円売り越している。つまり、為替の絶対水準が高い所では着実に外国債券の利確を入れていることになる。

図表:日本の財務省より筆者作成

米国の利上げの織り込みの再加速から、「米ドル/円」の続伸の可能性はある。ただ、2024年末まで相応に利上げを織り込んだ結果、「米ドル/円」はやや割高な水準まで買われている。3月の決算期末に向け、相対的に「米ドル/円」の水準が高いところでは、国内機関投資家の外債処分売りが続くとみる。以上をまとめると、ここからの「米ドル/円」の上昇余地は乏しそうだ。

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2022年1月7日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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