スペシャル・トレンドレポート

米国の利上げの織り込みはほぼ終了、2022年「米ドル/円」108~118円と予想(竹内 のりひろ氏)

2021年12月3日
東京支店のチーフディーラー :「今年の為替市場の動きを一言で表現すると「米ドル」高。米国経済の回復から、色々なところで需要が供給を上回り、需給ひっ迫が発生した。インフレ率は高止まり、金融緩和の正常化期待から米金利が上昇、結果「米ドル」買いが断続的に続いた」
NYのシニアディーラー :「それも、日本や欧州など金融緩和の正常化が見通せない国や地域の通貨に対しての「米ドル」買いが目立ちましたね。来年もこの流れが継続して「米ドル/円」は軽く120円を突破すると考えたくなるのですが、どうなのでしょうか」
東京支店のチーフディーラー :「確かにテーパリング(量的緩和の縮小)は来年の半ばまでには終了するだろうし、今の調子でいけば最短で来年6月の米国の利上げも視野に入りそうだからね。利上げや引き締めと聞いただけで「米ドル」買いと考えたくなるのだが、過去を振り返ると「米ドル」買い一色というわけでもない」
NYのシニアディーラー :「僕もじっくり調べてみましたが、先輩のおっしゃる通りでした」
東京支店のチーフディーラー :「通貨高となるのは、「利上げ」が広く金融市場に織り込まれる時なのだ。一旦、織り込まれてしまうと、よく言う「材料出尽くし」と同じでそれ以上は通貨高にはなりにくい。来年の「米ドル/円」の上昇余地は乏しいとみておく」

師走に突入したばかりだというのに、すでに来年の「米ドル/円」の行方の議論が過熱している。それも、米国で利上げが実施されても「米ドル」買いになりにくいという。今回は背景と理由に切り込み、2022年を展望する。

11月24日(水)、米国の感謝祭の祝祭日を前に「米ドル/円」は年初来高値の115.52円を示現した。115円という節目を突破したことで、一段の上昇を期待したミセスワタナベ(注)も多かったに違いない。ただ、「南アフリカでコロナの変異株であるオミクロン株が発見され、近隣諸国や欧州でも相次ぎ感染例が報告」されたことで、週明けの30日(火)にかけて112.54円までの大きな反落となった。

(注)日本人の為替投資家の相称。“Mrs.Watanabe”として海外でも立派に通用する。それは日本の個人投資家の売買高が看過できない水準まで拡大しているから。

本レポート執筆時点(12月1日(水)朝)でも依然113円台で推移と、やや115円台が遠く感じられる。

チャート:外貨ex byGMO MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

2021年の為替市場の動きを振り返ると「米ドル」全面高、特に中銀が依然マイナス金利を採用しており、金融緩和からの出口が見通せない「円」や「ユーロ」に対して大きく「米ドル」買いが進んだ。昨年末比では、「米ドル/円」の上昇率は10%に迫り突出している。

図表:筆者作成

「米ドル/円」は年初の1月6日(水)、年初来安値102.60円をつけたが、その後は底入れ、年後半にかけて上げ幅を拡大した。その原動力となったのは、米国の金融正常化だ。テーパリング(量的緩和の縮小)の発表やこの先の利上げの前倒し観測から、金融市場の利上げの織り込みが加速した。

コロナ後の経済環境は以下だった。

①ロックダウン(都市封鎖)しかコロナ感染を防げなかったこと。

②ワクチンの開発が不透明だったこと。

③量的緩和や利下げなどの金融緩和しか、失業者を雇用現場に戻すことができなかったこと。

今や、経済が回復、職場に失業者が戻り始め、物価が上昇するなか、金融緩和などのマクロ経済対策の撤収は半ば当然なのだ。

11月後半の「米ドル/円」の上昇加速は、22日(月)にFRBパウエル議長の再任が発表されたことが大きい。バイデン政権は物価の上昇を放置したことで、人々の購買力が低下、支持率は低迷する。CPI(消費者物価指数)の伸びが31年ぶりの水準まで高進するなか、FRBの現在の体制が続くことでこの先の利上げの前倒しが視野に入った。

チャート:筆者作成

チャート:筆者作成

時をさかのぼる2000年代、米国ではITバブルの崩壊、同時多発テロ事件、イラク戦争の開戦などもあり景気はさえず、中央銀行であるFRBは政策金利を1.0%まで引き下げていた。その後、金融緩和の効果もあり、経済は立ち直り、当時のグリーンスパン元FRB議長は2004年6月に利上げを開始した。利上げは計17回、2006年6月まで実に425bp(4.25%)の利上げを実施した。

この2年にわたる引き締め期間中、「米ドル/円」は月間の終値で108.89円から114.44円まで5円も上昇しなかった。425bpもの利上げを実施しながら「米ドル」買いの市場反応は極めて限定的だった。グリーンスパン元FRB議長は当時の市場反応の乏しさをみて「コナンドラム」(注)と評し不思議がっていた。

(注)元の意味は「カリフォルニア産の白ワイン」。グリーンスパン元FRB議長は「謎」という意味で使っていた。

チャート:FRBより筆者作成

2010年代の次の米国の引き締め局面、100年に一度とされる未曽有の金融危機を招いたリーマンショックの余波から立ち直り、当時のイエレン元FRB議長は2015年12月に利上げを開始した。利上げは計9回、2018年12月まで225bp(2.25%)の利上げを実施した。

当時は、黒田日銀が強烈な量的質的金融緩和を継続していたが、この3年にわたる引き締め期間中、「米ドル/円」は月間の終値で120.30円から109.56円まで実に10円を超える下落を演じた。総利上げ幅としては225bpと2000年代の半分程度だったが、どちらのケースも利上げが大きな「米ドル」買いになっておらず、特に後者の場合はむしろ下落となり終わっている。

チャート:FRBより筆者作成

通貨の売買をする場合、スワップ金利を稼ぐという点で高金利は極めて魅力だが、利上げが通貨高に直結していない。これは簡単にいってしまえば、市場が将来の利上げをはるか前に織り込んでしまったからだ。2021年の「米ドル/円」も同じで、今年9月以降、約3回の利上げを追加で織り込んで「米ドル/円」は109円台から、年初来高値の115.52円まで駆け上がった。

以上をまとめると、来年2022年の「米ドル/円」の行方だが、2023年や2024年の利上げの織り込みが焦点となる。足元ですでに2023年末で5回程度織り込んでおり、それでも「米ドル/円」は115円台までの上昇が精一杯だった。すでにこの先の利上げを相応に織り込んでいることもあり、来年の「米ドル/円」の上昇余地は限定的だろう。

2022年の「米ドル/円」の予想レンジを108~118円とみておく。

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2021年12月3日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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